黒猫さんの作品「猫桜」
マイミクさんの 兎谷の黒猫さん から、
亡くなった猫さんのエピソードを題材に創作された美しい作品が届きました。
桜の季節のお話です。
~ 『猫桜(ねこざくら)』 ~ 兎谷の黒猫さん 作
『飼い猫のヨモギが夜遅くなっても帰らないので、ミチルさんは心配で心配でなりません。眠れずにいると風の音さえ猫の鳴き声のように聞こえてきます。何度も懐中電灯を手に家のまわりの猫の道筋をぐるぐるまわっては、近くの公園まで行ってみますが、草の葉は揺れていても猫の姿は見ることができません。
もしかしたらと、台所の外の狭いすき間をのぞくと、なにか小さなかたまりがあるようです。手を伸ばして触ると冷たく、固くなっていますが、猫であることはすぐにわかりました。光を当てると、目をかっと見開き、しっぽはふくらむだけ大きくふくらませています。これまで見たこともないほど、汚れて恐ろしさと苦しみにひきつったむごたらしい顔をしています。ヨモギでした。
家を出るまで元気でした。まだ1歳を過ぎたばかり、きれい好きのメス猫でした。よく見ると半開きの口から泡を吹いています。このところ報道されている毒物による動物の「不審死」のようすとよく似ています。よく見かけていたヨモギのおかあさんのノラ猫を急に見かけなくなったのも変です。ミチルさんは悲しくて悔しくてなりません。なにも悪いことなんかひとつもしていないのですから。なぜ救ってやることができなかったのだろう、と自分を責めて泣きました。
そうしているうちに、小さな猫が語りかけてくるのでした。
「わたしを桜の木の下に埋めてください」
確かにそう聞こえたので驚くと、目が覚めました。ミチルさんは、涙をぬぐいもせずにヨモギを抱いて近くの公園に行くと、まだ暗いなか桜の木の下に猫のヨモギを埋めました。
それから、季節がいくつか過ぎ、桜の花が咲く季節を迎えました。
公園のあの桜の木の下でも、花見の輪ができています。「今年の桜は例年になく美しいなー」などと、猫嫌いの人たちの声も聞こえています。
そばを通りかかったミチルさんは、その時 子どもたちのさわがしい喜びの声の中にヨモギの喜ぶ声も確かに聞きました。
ミチルさんはヨモギに毒を食べさせた犯人を捜し出し、復讐してやりたいと思ったこともあったのですが、これでよかったのだと思いました。心の美しい猫のヨモギのことだから、なにかを恨んで生きていくことは望まないでしょう。美しいものを美しいと感じ、醜いことを醜いと感じる心が、子どもたちのなかに育つのなら、小さな猫の死も無駄にならない。たとえ忘れ去られるとしても。
その時、猫が喜ぶときにそうするように草の葉が静かに、まるでヨモギのしっぽのように動いたのでした。それからというもの美しい桜の花を見るたびに思うのでした。この桜の木の下にも心の美しいヨモギのような猫が眠っているのに違いないと。 』
~おわり~
黒猫さん、ありがとうございました。
何度読んでも泣けてきます。
これから桜だけでなく、いろいろな木々の花を見るたび、
ヨモギさんのことを思い出すでしょう。
*写真と本文は関係ありません。
でも、モデルになった上の写真の白ネコ「ジャック」も、今はどこかで桜になっていることでしょう。最後に会ったのはかれこれ一年以上前です。公園で出会った餌やりさんに聞いたら、病気で亡くなったらしいとのことでした。
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コメント
pixydustさん、私もこのお話しを読んで泣いてしまいました。
なんていうんでしょう、あっという間に涙があふれ出てしまいました。
今の小さな子どもたちも、このお話しを読んだら何か感じてくれるのでしょうか?そうであったらうれしいのですけれども・・・。
投稿: はっP | 2008.07.08 22:26
まるこめさんの『海猫伝説』からお邪魔しました
なんて悲しくて切ないお話でしょう・・・
。・゚・(ノД`)・゚・。 うえええん
心の優しいヒトが増えますように・・・
投稿: はむ | 2008.07.10 08:23
★はっPさん
人間も動物も、形あるものはいつか終わる、ということが分かっているからこそ、愛しさや大切さが身にしみ、別れへの覚悟が辛いと思う事が多いです。
考えたら、大地の下には、過去の多くのいろいろな命が眠っているんですよね。私もそのことを想い、泣けました。
★はむさん
ご来訪、ありがとうございます。嬉しいです。
まるこめさんのところに出てくる猫さんたちにも、そんな哀愁を重ねつつ見ています。すれ違った猫さんたちに、「こんにちは」と言って微笑むことのできるような生き方がしたいなぁ・・と、しみじみと思います。
ご結婚おめでとうございます。
きっと心優しいご夫婦になられることでしょうね。
どうぞお幸せに♪
投稿: pixydust | 2008.07.11 08:27